祖父の死とサウンドオブミュージック

はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」

晦日の夜。テレビは”サウンドオブミュージック”を映していた。

サウンドオブミュージック、いいよね、好きだな、と思いながら家族と過ごす、のんびりと平和な時間。一人掛けのソファーにだらしなく座りながら一緒に歌を口ずさんだりする。新年までもう少し。 

突然部屋中に鳴り響く、けたたましい電話の音。非常識な時間に鳴る電話。

なんとなくわかってしまった。でも考えたくない。

父がパッと電話をつかんだ。

「もしもし? うん・・・うん・・・そうか・・・・・・わかった。」

涙が出てきた。信じたくない。その先を聞きたくない。けれども父は続けた。

「すぐ帰る。」 

一瞬部屋の時間が止まった気がした。

父がゆっくりと受話器を置いた。父が口にしなくても家族全員がわかってしまった。

涙が止まらない。放心状態のまま、テレビの前に身じろぎもせず居続ける。

ドレミの歌が流れている。でも歌えない。私の頭の中はもう真っ白だ。 

「おじいちゃん・・・」

祖父が末期のガンだとの連絡を受け、長男の父が急遽帰国したのはたった1か月前。

「手荷物だけで帰るから、準備して。」と父は静かに言った。

翌日私は機上の人となった。

昭和63年12月31日のこと。